TL;DR
- 01何が起きたか
国立病院機構の北海道医療センターと北海道がんセンター(札幌市)は 2026 年 6 月 8 日、電子カルテの更新で処分を外部に委託した端末の HDD の一部が、破砕されないまま外部に流通していたと公表した。2025 年 6 月、ネットオークションで HDD を落札した 2 人からの連絡で分かった(報道)。回収した HDD には、両院あわせて約 17.9 万名の患者の情報が記録されていた。
- 02なぜ見分けられないか
委託先のリプロワークは、破壊の工程で一部の処理が不十分だった可能性があり、HDD は資源リサイクル業者を経てオークションに出たとみている。破砕の前と後の HDD を同じ形の容器で管理していたとも説明した(報道)。委託元の病院は、壊されたかを 1 台ずつ確かめていなかった。
- 03欠けていた層
落札者の連絡で HDD は回収され、機構は委託先を刑事告発した。ただ、気づいたのは HDD が転売された後だった。効かなかったのは、委託した媒体が確かに壊されたことを、委託元が 1 台ずつ確かめる層である。
何が起きたか
- 当事者
- 国立病院機構(NHO)の北海道医療センターと北海道がんセンター(札幌市)。
- 委託
- 電子カルテの更新に伴い、使わなくなった端末の処分を外部の廃棄処理業者に委託した。報道によれば、北海道医療センターは 2024 年 3 月に約 750 台、北海道がんセンターは 2024 年 11 月に約 570 台の HDD を、石狩市の同じ業者(リプロワーク)に委ねた。
- 流通
- HDD の一部が、適切に破砕されないまま外部に流通した(両院)。委託先は、破壊の工程で一部の処理が不十分だった可能性があり、資源リサイクル業者を経てネットオークションに出たとみている。意図して流通させた事実は無いとする(同社)。
- 発覚
- 2025 年 6 月、ネットオークションで HDD を落札した 2 人から、北海道医療センターのものと思われるデータがあると連絡があった(報道)。
- 規模
- 機構はネットに出品された 90 台を回収し、うち 33 台に電子カルテのデータがあった(報道)。回収した HDD には、北海道医療センターで実数約 17 万名、北海道がんセンターで約 8,800 名の患者の情報が記録されていた(両院)。両院は、旧電子カルテの患者 ID の総数をもとにした想定上の最大範囲も示し(報道では約 51 万人)、全員分が漏れたということではないとしている。
- データ
- 氏名、患者番号、生年月日、住所、電話番号、診療日、診療科、入院の情報、病名、検査結果、アレルギー、看護記録の一部など。マイナンバー、口座番号、カード番号は含まない。
- 不正利用
- 不正利用や二次被害の報告は確認されていない(両院)。
用語メモ
電子カルテ — 患者の診療記録を電子的に保存する仕組み。病名や検査結果など、特に機微な情報を含む。
物理破壊(破砕) — HDD を砕いたり穴を開けたりして、データを読めなくすること。消去ソフトによる消去とは別の方法。
止めどころは ②。委託元が 1 台ずつ、壊したことを写真や記録で確かめていれば、壊されていない HDD は外に出る前に見つかった。
2024 年。
委託先の説明(報道)。
確かめないまま転売(報道)。
2025-06。
時系列 — 公表と対応
- 北海道医療センターが、HDD 約 750 台の処分を委託(報道)。
- 北海道がんセンターが、約 570 台の処分を同じ業者に委託(報道)。
- ネットオークションの落札者 2 人から、病院のものと思われるデータがあると連絡(報道)。
- 両院が公表。機構は廃棄物処理法違反の疑いで、委託先を北海道警察に刑事告発した(報道)。同じ日、厚生労働省が都道府県に、情報機器の廃棄時の漏えい防止策の徹底を求める事務連絡を出した。
- 委託先が、処理が不十分だった可能性を認める文書を公表。
- 回収された HDD から、札幌市の別の病院(新札幌豊和会病院)の患者 4,721 人分の情報も見つかったと報じられた。
両院の公表(一次)は、委託の時期と台数、委託先の名前、発覚の経緯、回収の台数、刑事告発に触れていない。これらは報道と委託先の文書に拠る。報道の「約 18 万 6,900 人」(患者と職員)と両院の公表の患者数は一致せず、差は説明されていない。発覚から公表まで約 1 年かかった理由も説明されていない。2026 年 10 月の時点で、警察の捜査の進み具合は公表されていない。
公表後の対応
- 両院: 院内で確実に物理的に壊すことを原則とし、複数人での確認を必須にし、委託先の選び方と管理を厳しくするとした。
- 厚生労働省: 医療機関に、廃棄への立ち会いや、壊した写真・消去のログの提出を求めるよう示した。再委託の有無も、契約の前に確かめるよう求めた。
なぜ止まらなかったか
この事案の失敗は、委託先ひとつの不注意だけではない。HDD を壊したかどうかは委託先の作業に任されていて、委託元の病院は、1 台ずつ壊されたことを確かめる手段を持っていなかった。
委託した HDD が確かに壊されたかを、委託元は委託先の作業に任せたまま確かめておらず、壊されていない HDD が転売を経てネットに出た。
証明は廃棄を終えたことにする前に働き、検出は HDD が外で見つかった後に働く。その間、委託した HDD は「壊したはず」として扱われる。
転売され、ネットに出た
検出は働いたが、気づいたのは病院でも委託先でもなく、HDD を落札した一般の人だった。「処分を委託した」と「1 台ずつ壊された」は別々の事実なのに、前者で後者を済ませていた。この隔たりが検出と証明の落差であり、構造的な欠落である。
同じ構造は、阿波銀行(役目を終えたテスト環境に、消すはずの顧客データが残っていた)にも現れている。
対策するには
委託した媒体が壊されたことを、委託先の申告ではなく、1 台ずつの記録で確かめる。厚生労働省も、廃棄への立ち会いや、壊した写真・消去のログの提出を求めるよう示している。院内で壊すことに切り替える場合も、誰が、どの台を、いつ壊したかを記録する点は変わらない。
注意したい業界・業務
- 業界医療・ヘルスケア
- 電子カルテの更新などで、患者の情報を含む機器を大量に廃棄する医療機関。病名や検査結果は、漏れたときの影響が大きい。
- 業務機器の廃棄
- パソコンやサーバーの処分を外部に委託する業務。委託先からさらに再委託や転売が起きることがある。
いまの対策で防げるか
| 対策 | 今回 | 理由 |
|---|---|---|
| 委託契約での破砕の取り決め | 一部 | 委託先は破砕を請け負っていたが、一部は壊されなかった。 |
| 廃棄への立ち会い | 一部 | 立ち会った台は確かめられるが、数百台のすべてに立ち会うのは難しい。 |
| 院内での物理破壊(再発防止策) | 一部 | 委託先に頼らずに済むが、誰がどの台を壊したかの記録が無ければ、確かめにくさは残る。 |
| 落札者などからの連絡 | 一部 | 回収につながったが、HDD はすでに転売されていた。 |
- 1 台ずつ、壊した証拠を受け取る。台ごとのシリアル番号と、壊した後の写真や消去のログを結びつけて受け取り、委託した台数と突き合わせる。
- 確かめられない台は、終わったことにしない。証拠が揃わない台は廃棄済みとして扱わず、委託先に確認する。再委託の有無も、契約の前に確かめる。
- 何を確かめたかを残す。台ごとに、誰が、いつ、どう壊したかを、後から第三者に示せる形、つまり証明として残す。
機器の廃棄について、組織で確かめる 3 項目
- 廃棄を委託した機器を、1 台ずつシリアル番号で言えるか。
- その 1 台ずつについて、壊した写真や消去のログを受け取っているか。
- 委託先が再委託や転売をしていないかを、契約の前に確かめているか。
注:写真やログそのものを偽られれば、この確認も通ってしまう。また、台数が多いほど、1 台ずつ確かめる手間は大きくなる。
Sources
- 一次・当事者の公表北海道医療センター「個人情報の取扱いに関するお詫びとご報告」
- 一次・当事者の公表北海道がんセンター「個人情報の取扱いに関するお詫びとご報告」
- 一次・委託先の公表リプロワーク 両院から受託した HDD の処理についての文書
- 一次・事務連絡厚生労働省「情報機器等の廃棄時における個人情報漏えいの防止策の徹底について」
報道・解析 5 件
- 報道UHB「【個人情報流出】破砕依頼したはずのHDDがネットオークションに…患者や職員など最大51万人分被害か」
- 報道NHK「北海道医療センターなど個人情報流出か 最大約51万人分おそれ」
- 報道・京都新聞に配信共同通信「患者ら18万6千人分の情報流出」
- 報道・委託先への取材北海道新聞「HDD破砕確認せず売却 産廃業者『不注意でミス』」
- 報道北海道新聞「患者情報含むHDD流出、新札幌豊和会病院でも4721人分」