TL;DR
- 01何が起きたか
マサチューセッツ大学アマースト校の研究者は 2026 年 8 月の USENIX Security で、期限切れの Visa の非接触カードを、カードと端末の間の中継で期限内に見せ、決済を通せることを示した。始まりは、確実に処分されなかった実物の期限切れのカードである。
- 02なぜ見分けられないか
Visa の構成では、端末が読む有効期限がカードの署名で守られておらず、途中で書き換えてもカードのほかの検査は有効に見えたまま通った。決済が通るかは、発行者の銀行が、そのカードの状態を自社の記録で確かめるかで分かれた。
- 03欠けていた層
研究者は 2025 年 5 月と 12 月に Visa と銀行に知らせたが、発表の時点で緩和は確認されていない。効かなかったのは、端末が読む有効期限を、発行者がそのカードの記録と照合する層である。
何が起きたか
- 研究者
- マサチューセッツ大学アマースト校の Raja Hasnain Anwar、Gerard DeCunha、Muhammad Taqi Raza。論文「Zombie Cards Back Online」を USENIX Security 2026 で発表した。実地の被害ではなく、研究者による実証である。
- 始まり
- 確実に処分されなかった、実物の期限切れのカード。期限切れのカードは雑に捨てられることが多いとしている。すべてのカードの持ち主を遠くから狙える攻撃ではない。
- 手口
- スマートフォン 2 台でカードと端末の間に中継を作り、端末が読む有効期限の値だけを書き換えた。特別な機器は使わず、店舗の普通の条件で動いた。
- 通った理由
- Visa の構成では、端末が読む有効期限がカードの署名の範囲に入っていなかった。そのため、カードの暗号の応答は有効に見えたままだった。発行者は、承認の要求の中の別の項目にある有効期限に頼っており、2 つの値が結び付いていなかった。
- ブランドと銀行
- Mastercard・American Express・Discover の構成は、書き換えた有効期限を受け付けなかった。米国の大手 5 行では、通した銀行と、断った・新しいカードを求めた銀行に分かれた。1・100・500 ドルの決済で、期限切れが通ることを観察した。
- 研究者がしていないこと
- カードの暗号を破ったり、安全のための応答を偽造したりはしていない。中継のコードは公開しない。試した店舗には事前に知らせ、代金はすべて払った。
用語メモ
非接触決済(EMV) — カードを端末にかざして払う方法。カードと端末が近距離の無線(NFC)でやり取りし、端末が銀行に承認を求める。
中継(リレー) — カードと端末の間に機器を挟み、やり取りを受け渡すこと。今回はスマートフォン 2 台で行い、途中で有効期限の値だけを書き換えた。
発行者 — カードを発行した銀行。決済の承認を出すかどうかを最後に決める。
研究者の検証で見ると、決済は次の連鎖で通った。
止めどころは ④。発行者が、そのカードの有効期限と状態を自社の記録と照合していれば、③ で書き換えた期限は通らない。
実物のカードが要る。
特別な機器は使わない。
署名の範囲外なので、ほかの検査は有効に見える。
カードの状態まで確かめる銀行は断った。
時系列 — 公表と対応
- 研究者が Visa と関係する銀行に知らせる。
- 研究者が Visa と銀行に、もう一度知らせる。
- USENIX Security 2026 で発表する。8 月 18 日に The Register が報じる。
本件の事実は、研究者の論文の要旨と著者の要約(一次)に拠る。報道はそれを伝えたもの。実地の被害額や被害者は主張しない。試したカードや取引の数、成功の割合は公表されていない。
公表後の対応
- Visa: 著者の要約によれば、研究者の報告は最初の選別を通り、Visa の検証の担当が再現を進めていた。発表の時点で、Visa も知らせた銀行も、有効期限の問題を緩和したとは確認していない。CVE は割り当てられていない。
- 研究者: 発行者とブランドに、有効期限を決済の最初から最後まで一貫して確かめること、口座ではなくそのカードの状態を確かめることを勧めた。中継を見つける仕組み(Relay Resistance Protocol)は、試したカードと端末では有効になっていなかった。
なぜ止まらなかったか
この事案の失敗は、カードの暗号が破られたことではない。端末が読んだ有効期限が、発行者が持つそのカードの記録と照合されないまま、決済が承認されたことにある。
有効期限はカードの中にあるが、Visa の構成ではカードの署名で守られていなかった。端末が読んだ値と、発行者が持つ値が結び付いていなければ、途中で書き換えた期限がそのまま通る。
ここでいう証明は、決済の判断に使う有効期限が、発行者の記録にあるそのカードの期限と一致することを、承認の前に照合すること。検出は、おかしな取引に後から気づくこと。
カードが通る
カードの状態まで確かめる銀行は、決済を断るか、新しいカードを求めた。一方で、端末の判断に頼り、速さのために確かめを省く銀行では、書き換えた期限が通った。この隔たりが検出と証明の落差であり、構造的な欠落である。
同じ構造は、Google の API キー(取り消した後もしばらく使えた鍵)にも現れている。
対策するには
決済の承認では、端末が送ってきた有効期限ではなく、発行者が持つそのカードの記録で、期限と状態を照合する。端末が読む値は途中で書き換えられうる。承認の前に自社の記録と照合すれば、期限切れのカードは期限内に見せられても通らない。検出の代わりではなく、検出の手前に置く層である。
注意したい業界・業務
- 業界金融
- カードを発行し、決済を承認する銀行。速さのために端末の判断に頼る処理がある。
- 業界小売
- 非接触の決済を受け付ける店舗。中継を見つける仕組みが端末で有効かは、店舗からは見えにくい。
いまの対策で防げるか
| 対策 | 今回 | 理由 |
|---|---|---|
| カードの暗号の検査 | 効かない | 有効期限が署名の範囲に入っておらず、検査は有効に見えたまま通った。 |
| 発行者の承認 | 一部 | そのカードの状態まで確かめる銀行は断ったが、通した銀行もあった。 |
| 中継を見つける仕組み(RRP) | 一部 | 任意の機能で、試したカードと端末では有効になっていなかった。 |
| 期限切れのカードの処分 | 一部 | 攻撃の入口を減らすが、雑に捨てられたカードは残る。 |
- 承認のとき、そのカードの有効期限と状態を、発行者の記録と照合する。口座が有効かではなく、その番号・その世代のカードが有効かを確かめる。
- 有効期限が記録と合わない取引は、承認しない。端末の判断や処理の速さを理由に、照合を省かない。
- 端末が読む有効期限を、署名の範囲に入れる。ブランドと端末の側で、中継を見つける仕組みも有効にする。
カードの決済を承認・受け付ける組織で確認する 3 項目
- 決済の承認で、有効期限を端末が送ってきた値ではなく、自社の記録と照合しているか。
- 口座ではなく、そのカード(番号・世代)が有効かを確かめているか。
- 期限切れや再発行で使わなくなったカードの処分の仕方(IC と磁気の部分を切る、窓口に返す)を、利用者に伝えているか。
注:研究者は実物の期限切れのカードから始めており、遠くからすべてのカードを狙える攻撃ではない。Visa や銀行が緩和を発表すれば、この Brief を改訂する。
Sources
- 研究・一次USENIX Security 2026 Anwar, DeCunha, Raza, “Zombie Cards Back Online: Reviving Expired Credit Cards for Contactless Payments”
- 研究・一次・著者の要約Khwarizmi Lab “Reviving expired cards for contactless payments”
報道・解析 1 件
- 報道The Register “Expired credit cards revived by researchers to make unauthorized payments”